VRIO分析とは?事例を挙げてわかりやすく解説します
VRIO分析とはなんでしょうか?今回はVRIO分析について
・どのような目的で使われるのか
・どのように使うか
解説していきたいと思います。
目次
VRIO分析の目的
VRIO分析は「ブリオぶんせき」と読みます。
VRIO分析は個別の企業の強みと弱みを分析するためのフレームワークです。特にその企業の経営資源についての評価を行い、他社と比べた競争優位がどこにあるのかを分析するのに使用します。
例えばハーレーダビットソンはなぜ大型バイク業界で勝ち続けられるのはなぜでしょうか?
ハーレーダビットソンのバイクそのものが魅力的なのでしょうか?それとも他の要素があるのでしょうか?
こうしたものを分析するのがVRIOフレームワークです。
VRIOはValue(経済的価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織的活用)の頭文字をとったものです。この4つの観点から、企業の持つ経営資源を評価していきます。
Value (経済的価値)
経済的価値とは、その企業が持っている経営資源が「その業界を勝ち抜く上で役に立つか」という評価です。経済的価値を持つ経営資源を持つ企業はその業界内で競争力を持ちます。
例えば1兆円の資金を持っている企業があったとします。つまり「財務資本」という経営資源を持っている会社ということです。この企業がラーメン屋業界に参入するとして、この財務資本はラーメン屋で勝ち抜くために役に立つ経営資源でしょうか?
答えは否です。もちろん豊富な資金があれば良い材料を使えたり商品開発にお金をかけられたり多店舗展開できたりというメリットがあります。しかし巷で流行っているラーメン屋を見ると必ずしも大手資本を持つラーメン屋ばかりではありません。小規模なラーメン屋や個人経営のラーメン屋でも地域的には十分に大手に勝てるはずです。
つまりラーメン屋業界においては「豊富な資金」は必ずしもマストアイテムではないのです。
逆に「商品差別化が難しく価格勝負に陥りやすい業界」は大手企業に有利であり、豊富な資金という財務資本は役に立つ経営資源となります。スーパーマーケット業界などは大手の方がサプライヤーに対する交渉力が強く安く商品を入手できるため、個人経営のスーパーマーケットはなかなか太刀打ちできません。
Rarity (希少性)
希少性とは、その企業が持つ経営資源をどれだけの同業他社の企業が所有しているかということです。もちろん自社の持つ経営資源を多数のライバルも同じく持っているのであれば、その経営資源の相対的な価値は低くなります。一方で自社のみもしくは限られた企業のみがその経営資源を有しているとき、その経営資源の価値は高くなります。
今はキャッシュレス化によりコンビニでは現金を使わない人も多いと思います。コンビニからしてみれば、このキャッシュレス決済というサービスは物的資本です。キャッシュレス化することは消費者の利便性につながるため、経済的価値を持っていると言えそうです。
しかし今はセブンイレブンでもローソンでもファミリーマートでもキャッシュレス決済を利用することができます。つまりコンビニ業界においてキャッシュレス決済という経営資源の希少性は低いと言えます。そのためキャッシュレス決済を導入するだけではこの業界では差別化することができず、勝ち抜くことはできません。
Imitability (模倣困難性)
その経営資源を有していない企業が、その経営資源を新たに獲得、開発するのが困難か。これを表すのが模倣困難性です。模倣が困難な経営資源であればあるほど、その経営資源を持つ企業は業界の中で長く競争力を維持できます。
2007年にレアジョブがフィリピンの講師と日本人の生徒をつなぐオンライン英会話サービスの提供を開始しました。既存の英会話教室よりも格段に安く英会話の練習を行うことが可能であるため、この経営資源(格安英会話というサービス)は経済的価値もあり、また同様のサービスを提供している事業者も当時はなく、希少性も高いものでした。
しかし今ではDMM英会話、ネイティブキャンプ、weblio英会話、Cambly、QQ English・・・と無数の同様の格安オンライン英会話サービスが世の中にはあり、競争環境は激化しています。これはこのサービス自体の模倣困難性が低く、比較的に誰でも真似ができてしまうサービスであるためです。
つまり経済的価値や希少性が高くとも、模倣困難性が低い経営資源は一時的な競争力を持つことはできても持続的な競争力を持つことができないのです。
一方で模倣困難性が高い経営資源には、以下のようなものがあります。
- 独自の歴史的条件:「創業100年」「業界初」などといった時間的な長さやタイミングが価値を持つ経営資源で、後発の事業者では今さら真似できない場合。
- 因果関係不明性:変わったデザインの商品がなぜか売れている場合など、その経営資源がどのように競争力につながっているのか把握できていない場合。
- 社会的複雑性:ブランド力や人脈など、その構築が非常に複雑である経営資源で、企業がシステマチックに管理することができない場合。他社が真似しようとしてもどこからどうやって真似をしてよいのかわからない。
- 特許:法律によってその経営資源の模倣ができない場合。医薬品業界など。
Organization (組織的活用)
経済的価値があり、希少性もあり、模倣困難性が高い経営資源を有していたとしても、その経営資源をきちんと活用できる組織体制が整っていなければ意味がありません。命令・報告系統、マネジメントコントロールシステム、報酬体系など、その企業が保有する経営資源を活用するにあたり、組織的な方針や手続きが整っている必要があります。
ハーレーダビットソンの経営資源のVRIOフレームワーク
ここでひとつ例を挙げてみます。
ハーレーダビットソン(HD)は誰もが知る大型バイクのメーカーです。このハーレーダビットソンが大型バイク業界でなぜ競争力を長年維持できているのか、VRIOフレームワークを使って分析してみます。
競争力の源泉はバイクそのもの?
HDのバイクは大型バイクの中でも特に大きい850cc以上の”Super Heavy Weight”に集中しています。伝統的な空冷V型2気筒エンジンにこだわり、フレームやハンドルバーなどの外観、およびブレーキシステムやトランスミッションなども昔ながらのスタイルを特徴とします。かといって昔の製品をずっとそのまま販売しているわけではなく、デザイン面などにおいて新商品の開発は積極的に行っています。
こう考えると経済的価値はありそうです。大型バイクを好きな人はHDの見た目、スタイルを好むことでしょう。
一方でハーレーのような見た目や機能のバイクを他メーカーが作ることが必ずしもできないかというとそういうわけではありません。むしろ同じような大型バイクは他メーカーも積極的に展開しており、希少性や模倣困難性が高いとは言えないかもしれません。
競争力の源泉はブランド?
「ハーレーはバイクを売るのではなくHarley Experienceを売る」と言われるくらい、ハーレーのブランド力は強いものです。個性、自由、冒険といったアメリカのカルチャーを具現化し、HDは大型バイクに乗るライダーの象徴であるとも言えます。またHDは世界中で最も歴史あるバイクメーカーのひとつであるという事実は、HDのバイクに付加価値を与えています。ハーレーオーナーズクラブというハーレーオーナーが集まる組織も有し、ブランドに対するロイヤルティを高めるために一役買っていると言えます。
このブランド力はユーザーにとっての経済的価値があるのはもちろん、このブランド力には他メーカーにはない希少性があります。
また「もっとも古いバイクメーカーの一つである」という事実は歴史的経路に依存します。またブランド力という言葉は曖昧なものであり、複雑なものであるため、社会的複雑性が高いものです。どのようにすれば高いブランド力を入手できるのか確立した手法はなく、他社からの模倣が困難となります。
このブランド力こそがHDの競争力を持続可能なものとする最も大きな源泉であると言えるでしょう。
ただし決してこのブランド力が競争力のすべてというわけではなく、そのブランド力も高い製品力に下支えされているものであるということを補足しておきます。もしHDのブランド力が「最も古いバイクメーカー」という歴史的経路によって構築されていたとしても、販売している製品が陳腐化したものであれば、たちまちそのブランド力を失い、市場からの退出を余儀なくされます。
HDは決してブランド力の上の胡坐をかかず、絶えず製品開発を行っていくことで、更にそのブランド力を強固なものとしていると言えるでしょう。
逆にこれから大型バイク業界に参入しようとする企業は、単にHDのバイクの姿かたちを模倣するだけでは不十分であり、いかにしてそのブランド力に対抗するか、という点を念頭に置かなければ勝つことはできません。
ハイパーコンペティションの時代
現代は「超競争(hyper-competition)」の時代と言われ、業界内での競争はもちろん他業界との戦い(ビデオ会議システムが進み出張が不要になり、航空券が売れなくなるなど)もあり、かつてないほど競争環境が厳しい時代です。
そのためどの企業も一時的に競争優位になったとしてのすぐ他社にキャッチアップされたり代替サービスが現れたりして、持続的競争優位性を保つことが難しくなっています。
そのため1つの経営資源において持続的競争優位性を保つのではなく、他社に模倣されたらすぐに次に動けるような変化に強い会社こそが本当に強い会社になるのかもしれません。
- 鳥谷コロ助
へぼい外資系リーマンです。英語はいまだに勉強中。TOEIC875点。Bond-BBT MBA。英語学習とMBAと資産運用についてのブログを書いています。平飼いの卵とフェアトレードを好みます。金持ち父さんになるために日々悪戦苦闘。面白いことと平和なことが好きです。
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