RTOCS(Real Time Online Case Study)とは?「お仏壇のはせがわ」の例に解説します。

RTOCSとは?

 

BOND-BBTの授業ではRTOCSを行います。RTOCSとはReal Time Online Case Studyの略で、アールトクスと発音します。

 

一般的にMBAの授業で使用するケーススタディは過去の企業の成功例や失敗例を書かれたケースに基づいてディスカッションを行います。過去に紹介したMarketing Strategyの授業やManagement Strategy and Policyの授業では、こうした過去のケースを元にディスカッションを行います。

 

BOND大学MBAの授業紹介 ★Marketing Strategy (マーケティング戦略)

 

BOND大学MBAの授業紹介 ★Management Strategy and Policy (経営戦略とポリシー)

 

それに対してRTOCSでは、実際にリアルタイムで発生している企業の問題についてのディスカッションを行います。「もしあなたが〇〇社の社長だったら?」というように、社長になったつもりでその企業の問題点を考えてそれを解決する戦略を考え出す訓練です。

 

例えば以下のようなテーマについて話し合います。

 

  • あなたが「株式会社はせがわの江崎徹社長」ならば、家族構成の縮小や終活 ブームなど、死や葬儀に関する環境や意識が変化するなか、どのような事業戦略を描くか?(2019年1月13日)
  • あなたが「オリコンの小池恒 社長」ならば、7期連続売上減少の中、どのような打開戦略を描くか?(2019年2月3日)
  • あなたが「四国旅客鉄道(JR四国)の半井真司社長」ならば、採算がとれる路線が少ない現状の中で、どのように赤字経営から脱却するか?(2019年3月24日)

 

こういったテーマが発表され、あとは自分でデータを収集してそれぞれの戦略について考えていきます。一般的なMBAのケーススタディのように、あらかじめシナリオやデータが記載されたペーパーが配られるわけではありません。上のような1~2行のテーマのみが与えられ、それに対して自分なりの戦略を構築します。

 

もちろんリアルタイムで実際の企業に起こっている問題をどのように解決するか?という課題なので、唯一の正解があるわけではありません。場合によっては「撤退」といった選択もありかもしれません。

 

コロ助がBOND-BBTに在学中(2019年)は1つのテーマにつき1週間で以下の現状分析~戦略の方向性まで行っていましたが、2020年は2週間で1つのテーマを取り扱うようになっているようです。

 

 

RTOCSの手順

 

現状分析

 

まずはその企業をとりまく状況についての現状分析を行います。3C分析を行うと便利でしょう。3C分析とは、自社(Company)、他社(Competitors)、市場・顧客(Customers)の3つのCからその企業を取り巻く環境を分析するものです。SWOT分析や5フォース分析、VRIO分析などもマーケット環境を分析するのに使えるフレームワークです。

 

自社の売上は上がっているのか下がっているのか。財務状況はどうか。競争相手はどうか。市場全体は拡大しているのか縮小しているのか。

 

現状分析を行った後は「So What?」を考えることが重要です。単純に事実のみを羅列しただけでは意味がありません。その事実を総じて、「だからその事実が何を意味しているのか?」を考える必要があります。

 

 

問題点の抽出

 

現状分析の中から問題点を抽出します。

 

マーケット環境を分析していく中で自社の問題点が見えてくるはずです。他社と比較して優位性のある製品を提供できていない。市場が拡大傾向にあるものの自社の売上の伸長が思わしくない。

 

何もかも完璧で現状維持のまま全く問題のない企業などありません。何かしらの問題を抱えているものです。

 

 

課題の設定

 

そういった問題点の原因はいったい何なのか。それが自社の課題です。

 

市場が拡大しているものの自社の売上が伸びない原因はなんでしょうか。他社はオンラインでの販売で売上を伸ばしているものの、自社はいまだに対面販売しか行っていないことが原因かもしれません。このとき、「いかにしてオンライン販売網を構築するか」ということが自社の課題となります。

 

このように問題点の原因から自社の課題を見つけ出していく作業を行います。

 

 

戦略の方向性

 

最後に、その課題を解決するための戦略案を考え出します。

 

課題を設定したらそのまま放置しておくわけにはいきません。その課題を解決するための「戦略」を考えていく必要があります。

 

 

 

RTOCSの具体例

 

ではRTOCSの具体例として、上で例を挙げた株式会社はせがわをあげます。「お仏壇のはせがわ」で有名な企業です。

 

まずは現状分析です。

 

はせがわの現状分析(3C分析)

■自社
・業界最大手。年間売上約194億円でゆるやかな右肩下がり。
・売上の内訳は仏壇仏具:約67% /墓石:約25% /屋内墓苑:6% /その他:約2%
・国内メーカーとの共同開発品(カリモク家具等)による製品力の強化
・店舗:ショッピングセンターの中への新規出店増加 (2018年:5店舗)
・楽天市場を使ったネット販売(はせがわ Online Shop 楽天市場店)あり
・墓石事業は受注販売/屋内墓苑事業は寺院の所有する屋内墓苑の受託販売
・流動資産約59億円/流動負債約43億円/流動比率136%。

■競合
・はせがわがシェアトップであるが10%以下のシェアであり、群雄割拠状態。
・仏壇という製品の特性上、安さは重要ではない。いかに安く販売しようが怪しい業者からは買わない。

■市場
・「宗教用具小売業」というセグメントでみれば、この20年で約半分の市場規模となっている。
・死亡者数の増加もあり、「葬儀業」というセグメントで見れば成長産業である。
・マンション等で仏間、和室がない家も増えており、大型の仏壇は好まれない傾向にある

 

このような分析は単に事実を羅列しただけであり不十分です。So What (だから何なのか?)を考える必要があります。以下のようなイメージです。

 

So What?
■葬祭用具小売業という市場は大きく縮小しているものの、はせがわの売上は緩やかな減少に留まっている。ネット販売や家具メーカーとの共同開発などによってなんとか収益を確保している状態だといえる。今後もなんらかの施策を打たなければこのままジリ貧となることは確実な状態である。
■仏壇は比較的高価(平均数十万円)であり、非計画購買(事前の計画なしにふらっと店頭で見かけて購入する購買)は発生しづらい。そのため人が集まるとはいえ、わざわざ家賃の高いショッピングセンターへの新規出店を進める現在の戦略には疑問が残る。
■流動比率136%であり、不健全とはいえないまでも資金に余裕があるわけでもない。多額の資金を必要とする大型M&Aなどは優先すべき戦略ではない。

 

 

ここから問題点の抽出を行います。今回は以下の3点をはせがわの問題点として抽出しました。

 

問題点の抽出
1. 自社ポートフォリオの大部分が市場縮小傾向にある仏具販売に依存している
2. 仏具の販売が低迷する中で新規出店を進めている
3. バリューチェーンを考えたときに、商品開発はうまく進めている一方で販売は自社チャネルが中心

 

 

こうした問題点を踏まえ、はせがわの課題を設定します。

 

課題の設定
①いかに墓石、屋内墓苑のセグメントの売上を伸ばすか
②いかに市場の縮小が進む中で出店をコントロールするか
③いかに新しい販売チャネルの確保するか

 

 

最後に、これらの課題を解決するための戦略を考えます。

 

戦略の方向性
①安価な製品はオンラインでのみ販売し、ショッピングセンターを含め既存店舗の整理
②既存店舗の整理で余剰した人員を屋内墓苑セグメントへ振り替える
③生命保険会社とのコラボレーション

 

仏壇は比較的高価(数十万円)であり、非計画購買(事前の計画なしにふらっと店頭で見かけて購入する購買)は発生しづらい商品です。そのためいくら人が集まるとはいえ、わざわざ家賃の高いショッピングセンターへの新規出店を進める現在の戦略には疑問が残ります。

 

ショッピングセンター内への新規出店を取りやめることを提言します。比較的安価な商品は既存の「はせがわOnline shop楽天市場店」で販売し、実店舗はロードサイド店にて高価な仏壇の販売をメインとした方がよいでしょう。

 

マンションに住む核家族などは特に仏壇にこだわりがなく、「とりあえずマンションにおける小さくて安価な仏壇」を欲していると予想されます。こうした顧客層はオンラインをメインでコストをかけずにとりこみます。

 

一方で従来の大型・高価な仏壇を求める消費者も一定数います。こうした顧客層は「市場縮小で近隣の仏具店がなくなってしまった。知らない仏具店に行くのは不安だから、知名度のあるはせがわへ行こう」という感じで、特に便利なショッピングセンター内でなくてもはせがわを目当てに訪問してくれるでしょう。ここは知名度のあるはせがわの強みです。ロードサイド店舗は高級品を中心とした品ぞろえとし、オンライン販売とは商品を分けます。

 

また課題設定でみたように、縮小市場である仏具販売のセグメントから、死亡者数が増えることから需要増が予想される墓石、屋内墓苑のセグメントにポートフォリオをシフトしたいところです。

 

墓石セグメントに関しては、以下で述べる生命保険会社とのコラボレーションによる新規販売チャネルの開拓により新規顧客を開拓をします。

 

屋内墓苑セグメントとは、寺院の所有する屋内墓苑の受託販売のことです。はせがわの営業社員は住職と連携をして竣工から販売促進計画の立案まで関わっています。つまり営業社員は単に屋内墓苑の販売を委託されるだけではなく計画立案から住職側と関わることになるため、このセグメントを伸ばすためには営業社員と寺社との関係性強化が必須となります。

 

上記で述べたように一定数の既存店舗を整理します。これによって削減された仏具販売セグメントの社員をこちらの営業社員に割り振ることで、はせがわと寺社の関係性強化を狙います。

 

最後に生命保険会社とのコラボレーションです。どういったときに葬具を購入しようと考えるかというと、配偶者や親など身近な人が亡くなったときでしょう。人が亡くなったときのサービスとしてまず思い浮かぶのは生命保険。例えばオリックス生命などは、「葬儀費用を準備するための保険」というプロモーションを行っており、葬儀費用をまかなうための終身保険を提案しています。

 

「自身が亡くなったとき、残された配偶者やこどもに金銭的な負担をかけずに葬儀、お墓、仏壇を確保する」ための保険として、生命保険会社とタイアップをすることを提言します。具体的には死亡保険金の支払手続きに必要な書類の中に、はせがわの製品の案内を同封してもらう、もしくははせがわ自身が保険代理店として生命保険を販売し、保険金支払いのタイミングで自社製品を案内する、などが考えられます。

 

保険という商品はなかなか差別化が難しい商品です。生命保険会社にとっても「はせがわの商品を(割引価格で)ご案内できます」という付帯サービスは他の保険会社との差別化要因となり、双方にメリットがある提携スキームとなるでしょう。

 

 

参考リンク

はせがわ 平成30年3月期 有価証券報告書
https://corp.hasegawa.jp/ir/library/report/

はせがわ 平成30年3月期 決算説明会資料
https://corp.hasegawa.jp/ir/library/presentation/

はせがわ 新卒採用ページ 屋内墓苑事業
https://www.hasegawa.jp/recruit/fields/3/

オリックス生命保険 葬儀費用を準備する保険の選び方
https://www.orixlife.co.jp/guide/column/funeral.html

 

 

鳥谷コロ助
  • 鳥谷コロ助
  • へぼい外資系リーマンです。英語はいまだに勉強中。TOEIC875点。Bond-BBT MBA。英語学習とMBAと資産運用についてのブログを書いています。平飼いの卵とフェアトレードを好みます。金持ち父さんになるために日々悪戦苦闘。面白いことと平和なことが好きです。

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