新規ビジネスのアイデア発想フレームワーク【アービトラージ】
元マッキンゼー、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏の著書『発想力:「0から1」を生み出す15の方法』(小学館新書: 2018)において、ビジネスにおいて新しい発想を行う際の様々な「型」が紹介されています。今日はその中のひとつである「アービトラージ(Arbitrage)」について紹介します。
アービトラージとは
アービトラージとは、日本語で言えばいわゆる「裁定取引(サヤ抜き)」です。安く買える国で仕入れて高く売れる国で売る。安い時期に仕入れて高く売れる時期に売る。このように地理的な価格差や時間的な価格差を利用するビジネスです。また情報格差を利用したビジネスにもアービトラージという言葉は用いられます。
著書ではヘッジハンドマネージャーであるジュリアン・ロバートソンの例が挙げられています。彼は1997年にタイの経済を分析した結果、その実体経済とタイバーツの価値がかけ離れており、実態以上にタイバーツが評価されすぎていることに気づきました。これがロバートソンが見た情報格差です。そこで彼は大規模なタイバーツ売りをいち早く仕掛け、それによって他の投資家たちの狼狽売りを誘い、ロバートソンは巨万の富を得ることとなります。
これはロバートソンが他の投資家と比較して多くの情報を持っており、それによって為替市場からサヤ抜きをした例です。
コロ助は中学生の頃「信長の野望」という歴史シミュレーションゲームにはまっていました。このゲームでは手っ取り早くお金を稼ぐ方法があります。米が豊作で安く仕入れられる年に米を大量に買い、これを備蓄し、凶作で米の価格が跳ね上がった年に売る、という方法です。また海外で安く古着を買い付けて日本で高く売る、というようなビジネスもアービトラージの一種です。
このように様々な価格差、地域差、情報格差などを使って利益を上げる手法をアービトラージと呼びます。
アービトラージの種類
このほうに、アービトラージはさまざまな格差を利用したビジネスです。地域による価格の差(古着の例)や時期による価格の差(信長の野望の米の例)を利用したビジネスはイメージしやすいかと思いますが、情報格差(ロバートソンの例)は少しわかりづらいかもしれません。大前さんの著書でもこの情報格差についての説明が十分ではなく、読んだあとに「んっ?結局、情報格差によるアービトラージってなんだ?」と疑問符が付きました。
その後コロ助なりにこの情報格差によるアービトラージについて考え、「自社と他社の情報格差」と「事業者と消費者の情報格差」があると結論づけました。
自社と他社の情報格差
情報をたくさん持つ事業者が、情報を持たない他の事業者よりも安くモノ(または品質の高いモノ)を販売することで利益を得るビジネスです。
フィリピンでは英語を話せる人材が安く雇えるという情報を持っている事業者は、英国人や米国人等のネイティブスピーカーを雇っている英会話教室よりも安くサービスを提供することができます。英語を話せる人が多く人件費の安いインドにコールセンターを置く企業もあります。これはこうした国において英語が話せる安い労働力が確保できることを知っている事業者だけが可能なビジネスです。
このように他社の持たない情報を用いて安くモノを仕入れたり品質の良いモノを入手して、それを販売することでアービトラージを利用し利益を上げます。
事業者と消費者の格差
事業者側が情報を持っており消費者側が情報を持っていないとき、その間に入ることでその格差是正を行うビジネスです。
例を挙げます。交通事故の当事者と保険会社の間に入り、いかに多くの保険金を保険会社からとれるかということをビジネスとするサービスがあります。
自動車事故を起こした際の保険金請求で、保険会社は交渉の食の段階では相場よりも保険金支払額が低い査定額を提示することもあり得ます。消費者は交通事故の判例や保険約款といった「情報」をあまり持っていないため、保険会社に提示された額を鵜呑みにしてしまう場合もあるでしょう。しかし交通事故に強い弁護士が間に入ることで情報格差の是正を行うことが可能です。
このように高度な専門知識が必要とされる業種で、かつ製品・サービスの良し悪しの評価が難しい(価格が適正かどうかが不明瞭な)業種にアービトラージを利用したビジネスチャンスが存在します。
参考リンク:
弁護士法人響 https://kotsuziko-sos.jp/lp/kotsuziko_asp/asp_seas9027/
情報格差によるアービトラージの問題点
情報格差によるアービトラージを用いたビジネスの問題点は、それが期間限定のビジネスモデルでというある点です。つまりそこに情報格差があることが他社に周知されてしまえばすぐに模倣されてしまいます。特許などによってそのノウハウを独占できれば話は別ですが、そうでなければ新規参入者が続々とやってきてしまうでしょう。
上の例で挙げたフィリピン英会話についても同様です。日本でいち早くオンラインを用いたフィリピン英会話を本格的に事業化したのはレアジョブ社ですが、その後はDMM英会話、ネイティブキャンプ、QQ English・・・と数えきれないくらい「オンラインフィリピン英会話」を提供するサービスが乱立しています。
情報格差を用いたアービトラージによるビジネスモデルは初めのうちは大きく利益を上げることができるかもしれませんが、その後に他社がそのモデルを真似てきたときの次善策を常に考えておくことが重要です。上記のように特許が取れればベストですが、そうでなくとも初期の段階で「このサービスと言えば〇〇社」と消費者に認識されるようなブランドイメージの構築に注力するなど、ファーストムーバーアドバンテージを生かせるような戦略を描く必要があります。
- 鳥谷コロ助
へぼい外資系リーマンです。英語はいまだに勉強中。TOEIC875点。Bond-BBT MBA。英語学習とMBAと資産運用についてのブログを書いています。平飼いの卵とフェアトレードを好みます。金持ち父さんになるために日々悪戦苦闘。面白いことと平和なことが好きです。