新規ビジネスのアイデア発想フレームワーク【戦略的自由度】

元マッキンゼー、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏の著書『発想力:「0から1」を生み出す15の方法』(小学館新書: 2018)において、ビジネスにおいて新しい発想を行う際の様々な「型」が紹介されています。今日はその中のひとつである「戦略的自由度(Strategic Degrees of Freedom)」について紹介します。

 

 

戦略的自由度とは

 

著書ではシャープの事例が挙げられています。当時シャープは「世界の亀山モデル」と呼ばれた液晶テレビがバカ売れし、国内シェアの80%を占めていました。2006年には亀山第2工場を設立し、生産を拡大させます。しかしその後シャープの液晶テレビは韓国や台湾のメーカーにシェアを奪われていき、シャープは徐々にその競争力を失っていきます。

 

シャープの失敗はその技術力の固執した点であると大前氏は指摘しています。確かに当時、亀山モデルの技術は非常に高いもので、解像度も非常に高いものでした。しかし消費者がそれを求めていたかというと必ずしもそうではありません。人間の目に認識できる以上に解像度を上げるための技術を追求したとしても意味はありません。それよりも消費者は「そこそこの画質で安い製品」を望んでいるでしょう。

 

消費者が求めるテレビを開発する方法はいろいろあるはずですが、大前氏はシャープは「画質の美しさ」その1点のみを追求してしまった点が失敗であったとしています。

 

戦略的自由度とは、企業が行う戦略の方向性の数のことを言います。消費者を満足させるための手段をたくさん持っていれば「戦略的自由度が高い」状態であり、逆にその手段が少なければ「戦略的自由度が低い」ということとなります。シャープの場合は「画質の美しさ」という点のみでしか消費者を満足させる手段を持っておらず、戦略的自由度が低い状態でした。消費者が何を求めているのかをリサーチし、それを満足させるためにどのようなやり方があるのかを考えることが重要です。

 

 

バーミキュラの事例

 

ここで戦略的自由度の好例として愛知ドビーの炊飯器「バーミキュラ ライスポット」を紹介します。

 

 

この炊飯器は通常の炊飯器に搭載されている保温機能をばっさりと削除し、ご飯を炊飯することだけに特化した炊飯器です。保温機能がついていないので、ご飯が炊けたらすぐに冷めてしまいますが、一方で「世界一おいしく米が炊ける炊飯器」と言われています。

 

これは消費者が炊飯器に求めることを「おいしくご飯が炊けること」と設定し、そのためのさまざまな方向性(戦略的自由度)を考えて作られた製品です。

 

おいしくご飯を炊くためには炊飯器の素材、形状、熱伝導率、気密性、水の対流方法、蒸気の対流方法、蒸らしなど、さまざまな要因があります。これが戦略的自由度です。ご飯をおいしく炊くという目的を達成するためのさまざまな戦略です。

 

逆にご飯をおいしく炊くためには、保温のための蓋がどうしても邪魔になります。バーミキュラ ライトスポットでは思い切って保温機能を切り捨て、米をおいしく炊くことだけに特化しています。

 

保温用のフタをなくすることでゴムパッキンや金属部品を極力少なくし、米にそうした部品のニオイが移ることを極力避けました。また保温用のフタがないため釜の上部が外気にさらされ、加熱される下部との温度差が熱を対流させ、米がふっくらと炊き上がります。

 

釜は鋳物のホーロー鍋を使用(もともと愛知ドビーは鋳物メーカー)し、鋳物メーカーならではの技術で、釜と蓋を100分の1ミリの単位で調整し、気密性を確保。これでおいしいご飯を炊くことができます。

 

 

まず消費者が炊飯器に対してどのようなニーズを持っているのか。戦略的自由度ではこれを突き詰めて考えていくことが重要です。これを考えずに技術力ありきで炊飯器を開発すると、消費者が置いてきぼりになったメーカー本位の迷走した製品が生まれます。

 

IoTが家電業界で叫ばれるようになってからは「スマホで米の炊き具合を設定してそれを炊飯器に送信することができる」「遠隔でご飯が炊ける」といった、まるで消費者が(少なくともコロ助は)求めていない意味不明な機能を搭載した炊飯器を作っているメーカーもでてきます。遠隔でご飯が炊けると言っても、米を洗って炊飯器にセットするのは手動でやるんですよね?そこから先だけスマホを使って遠隔でやる意味、あります??それって本当に消費者のためになってます??炊飯タイマーで十分では??

 

一方で米をおいしく炊くことにこだわる消費者は確実に存在します。そうした人の中には炊飯器ではなくわざわざ土鍋で米を炊く人もいます。バーミキュラライスポットはそうした消費者をターゲットセグメントとし、おいしいご飯を炊くことを達成する手段をいろいろ考えました。「世界一おいしくご飯が炊ける炊飯器」というブランドコンセプトも効いています。

 

保温機能はもちろんあると便利ですし、それを求めているユーザーも多いと思います。でも結局ご飯は炊きたてがいちばんおいしいことに間違いはないでしょう。そのため保温機能をばっさりと切り捨てて、おいしいご飯を炊くことだけに特化したことは、戦略的自由度の点およびSTPやブランド戦略に基づいたマーケティング戦略としても秀逸であるといえます。

 

 

鳥谷コロ助
  • 鳥谷コロ助
  • へぼい外資系リーマンです。英語はいまだに勉強中。TOEIC875点。Bond-BBT MBA。英語学習とMBAと資産運用についてのブログを書いています。平飼いの卵とフェアトレードを好みます。金持ち父さんになるために日々悪戦苦闘。面白いことと平和なことが好きです。

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