新規ビジネスのアイデア発想フレームワーク【中間地点の発想(Interpolation)】
元マッキンゼー、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏の著書『発想力:「0から1」を生み出す15の方法』(小学館新書: 2018)において、ビジネスにおいて新しい発想を行う際の様々な「型」が紹介されています。今日はその中のひとつである「中間地点の発想(Interpolation)」について紹介します。
中間地点の発想とは
中間地点の発想とは、同性質のもののものの中間地点を取ることで新しいビジネスアイデアにつなげようというものです。AとBという既存の2つの製品がある場合、その中間地点をポジショニングすることで差別化を図ります。
これは単に中間地点をとることによって妥協点を探るということではありません。既存の2つの製品の中間地点をとることによって新たな価値を提供し、これまで満たされていなかった顧客のニーズに対応することが重要です。
著書で紹介されていたのはカメラのフィルムの事例です。少し古い事例ですがデジタルカメラが普及する前、カメラがまだフィルム式だったころ、巷には20枚撮りのフィルムと36枚撮りのフィルムが一般的でした。これは大手フィルムメーカーがこの枚数のフィルムを出していて、それがいつのまにか業界内で普及しマーケットスタンダードとなったもののようでした。
しかしよく顧客調査をしてみると、20枚撮りでは少なく一度の旅行ですべてを使い切ってしまうユーザーが多く、一方で36枚撮りでは多すぎて撮影の途中で現像するまでに季節を跨いでしまうことも多かったそうです。
一応フィルム式のカメラを知らない人に説明すると、昔はカメラに「フィルム」というものをいれて撮影していました。フィルムごとに撮れる写真の枚数が決まっており、撮影が終わるとそのフィルムをカメラから取り出してカメラ屋さんに持っていき、写真を紙に現像してもらうのです。36枚撮りのフィルムの場合、夏に旅行で20枚写真を撮ったとしても残りの16枚を撮り終わってカメラ屋で現像するまで写真が見れないので、あまり枚数が多すぎると秋になっても冬になっても夏に撮った写真を見ることができないのです。
そこで大前研一氏は20枚と36枚の中間地点である「24枚撮り」のフィルムを提案しました。20枚撮りでは物足りなく、36枚撮りでは多すぎる。そういったユーザーに対して24枚撮りのフィルムを提供し、ベストセラーになりました。
中間地点の発想の具体的事例
ここでいくつか「中間地点の発想」に関するビジネスの具体的事例を紹介します。
タブレット端末
スマートフォンとパソコンの中間地点の発想です。
スマートフォンはネットサーフィンやゲームなどのプライベート使用には十分です。持ち運びなどの機動性で優れる一方、画面サイズやメモリの容量は十分ではありません。
パソコンは大容量のメモリが搭載させており、またキーボードやマウスなどの付属品により操作性に優れています。一方で持ち運びには不便であり、起動にも時間がかかります。
このスマートフォンとパソコンの中間地点がipadなどのタブレット端末です。画面のサイズはスマートフォンより大きいため、本や論文などを読んだりドラマを見たりするのもスマートフォンより苦になりません。一方で持ち運びにも便利で、外出先や出張先での使用にも優れています。このようにスマートフォンでもパソコンでも満たせないユーザーのニーズをタブレット端末にて満たすことが可能になりました。
プレミアムエコノミークラス
エコノミークラスとビジネスクラスの中間地点の発想です。
ビジネスクラスは席の広さや設備、機内食、寄託手荷物などでさまざまな差別化がエコノミークラスとの間でされていますが、一方で価格も高く、エコノミーとビジネスの間には2倍程度の差があることが一般的です。
プレミアムエコノミーはこの中間地点にあり、「エコノミークラスよりも良いサービスをビジネスクラスよりも安い価格で受けられる」という特徴があります。各航空会社によってそのサービスはまちまちですが、単にエコノミーよりも席が広いだけというものから食事のサービスが変わるところまでさまざまです。出張時に「ビジネスクラスはダメだけどエコノミークラスはOK」という規定の会社も多いのではないでしょうか。
ほろよい
一般のカクテル飲料がアルコール度数5%程度なのに対して、サントリーのほろよいシリーズはアルコール度数3%と弱めの設定になっています。これはソフトドリンクとアルコール飲料の中間地点の発想といえるでしょう。
そこまでお酒に強くなくて普通のお酒は1本飲みきれないけどソフトドリンクだと物足りない。そんなユーザーにほろよいは答えてくれます。
クイックガストS
クイックガストSは、ガストよりも小さく(Small)、早く(Speed)食事ができるすかいらーく系のレストランです。メニューが少なく手軽にササっと食べるファストフードと、メニューが多く時間をかけてゆっくり過ごすファミレスの中間地点の発想です。
一人で食事をするときにファストフードだとやや物足りない、しかしファミレスは一人では利用しづらいといったときにその中間に位置するのがSガストです。扱うメニューはファミレスのようにハンバーグ、竜田、から揚げ、どんぶり、カレー、季節限定メニューなど豊富である一方で、カウンター席が中心であり一人客をメインターゲットにしています。値段もファストフードとファミレスの中間(450円~650円程度)が中心となっています。
- 鳥谷コロ助
へぼい外資系リーマンです。英語はいまだに勉強中。TOEIC875点。Bond-BBT MBA。英語学習とMBAと資産運用についてのブログを書いています。平飼いの卵とフェアトレードを好みます。金持ち父さんになるために日々悪戦苦闘。面白いことと平和なことが好きです。