マーケティングの基本【消費者行動論】安い商品がいいとは限らない
なぜ人はAという商品ではなくBという商品を買うのか?これを突き詰めて考えるのが消費者行動論です。
経済学を学んだ人は「合理的経済人」という言葉を聞いたことがあると思います。
人々は合理的な判断に基づき購買行動を行う。つまり同じ値段だったら性能がいい方の商品を買うし、性能が同じだったら安い方の製品を買う。
これが合理的経済人の消費行動です。最も効率的な消費行動を行い、自己の効用(満足度)を最大化します。経済学のあらゆる理論は、人々が合理的経済人であることを前提として成り立っています。
一方、リアルな人間は必ずしもこのような合理的な判断に基づいてモノを買ったりしていません。人は合理性判断だけではなく感情的判断にも多分に左右されているのです。
必ずしも安い商品が選ばれるとは限らない
例えばウィスキー。とあるウィスキーメーカーが数年前に値下げを行いました。シェアの拡大を目指し、安さで他社を出し抜こうとしたのです。
これに競合他社もそれに対抗し、ディスカウント合戦がはじまりました。
しかし、値下げしてもウィスキーは売れるようになりませんでした。それどころか販売量が若干落ち込んだようです。
むしろ値下げを行わなかったサントリーの「響」は相変わらず好調で売れ続けています。
これはなぜでしょう?合理的経済人であれば安い商品を選ぶのではないでしょうか?
実はウィスキーの消費の大部分は「贈答用」で占められています。
5,000円や1万円のウィスキーであればお歳暮として購入したりゴルフのコンペの商品として購入したりできますが、これが1,000円のウィスキーであれば贈答用としては使えません。
安いウィスキーを贈るとケチなしょぼい人間だと思われてしまいます。
そのため値下げをするとウィスキーは売れなくなってしまうのです。
ここには一般的な「品質と価格のバランスを考えてウィスキーを購入する」という合理性はありません。もし1,000円と1万円のウィスキーの質がほぼ同一だったとしても、贈答用としては1万円のウィスキーが好まれるのです。
価格は知覚品質を表す
よっぽどの目利きでない限り、多くの消費者は価格を見て品質を判断します。
つまり、高い値段がつけられていれば高品質だと判断し、安ければそれなりの品質だと判断します。
価格は知覚品質を表すのです。知覚品質とは実際の品質ではなく、「高品質に見えるか」「低品質に見えるか」とも言い換えられるでしょうか。
BMWの7シリーズ(普通は1000万円以上)を定価400万円で売ったらバカ売れするでしょうか?コロ助はそうは思いません。
品質がよい車であっても価格が安いとそれなりの車と判断されてしまうのです。逆にブランド価値が下がり、売れなくなってしまうかもしれません。
どういった基準に基づいて人は購買するのか
購入の基準が価格と品質のバランス(いわゆるコスパ)だけではないとすれば、どのような基準で人は商品を選択して購入するのでしょうか。
その基準には内的要因と外的要因があります。
内的要因とは消費者自身がその商品に対してどう感じるか、外的要因とは消費者の周りがその商品に対してどう感じるかを意味します。
内的要因
・知覚
・学習
・態度
外的要因
・準拠集団
・オピニオンリーダー
知覚
「その商品をどう感じるか」という感覚を知覚といいます。見た目がかっこいい、手触りがいい、店内BGMがオシャレで高級感を感じる。こういった知覚を総合して消費者は商品を選択します。
価格設定も知覚に影響を与えます。先述の通り、高い価格設定がされた商品は高品質を示唆し、低価格の商品はそれなりであるという知覚を消費者に与えます。
要するに消費者の感情を揺さぶるのです。消費者の五感を揺さぶり、良い商品であるというイメージを構築する必要があります。
学習
消費者は学習をします。過去の自身の購買の経験や外部からの刺激などにより学習し、購買行動を変化させます。
過去にAというメーカーから買った商品に満足すればまたAの商品を買う可能性は高まりますし、逆に不満足であればもう購入しないかもしれません。
またテレビCMにオシャレな女優さんが出ていればその商品のことを「オシャレな商品である」と消費者は学習し、自身の消費行動に影響を与えるかもしれません。
例え良い商品であっても消費者がそれを体験しなければその良さを知る機会がありません。企業はあらゆる手段を使って自社商品を体験させ、消費者に学習させ、良い商品であるということを知らしめる必要があります。
態度
態度とは消費者のその商品に対する「好きか嫌いか」の度合いをいいます。
アップルの製品が大好きな人は一定数います。こうした人たちはアップル製品に対する態度が非常に好意的な人たちです。
こうした人たちはアップルの製品の品質や価格といった面だけではなく、「アップルだから」という理由で買うこともあります。
消費者の態度が非常に好意的な商品は、消費者ななかなか離れません。逆に消費者の態度が弱い(その商品に対する忠誠心が弱い)商品は、少し価格を上げたり品質が下がるとすぐに消費者が離れてしまいます。
準拠集団(Reference Group)
身近なグループの人たちはどんなモノを持っているのか。その比較の対象となる集団を準拠集団といいます。
自分が何かを購入する際、家族や学校のクラスメイト、同僚、ママ友、遊び仲間など、自分の所属するグループの他の人が持っているものを参考にする傾向にあります。
もっとも信頼性のある広告は身近な人の口コミだと言われています。
テレビCMで有名タレントが美辞麗句を並び立てた商品よりも、身近な人がお勧めお勧めした商品の方を人は欲しくなります。
企業としてはそうした「つい友達に自慢したくなる」ような仕組みを作ることが重要です。
オピニオンリーダー(Opinion Leader)
強いカリスマ性を持つ人、憧れの人、信頼のおける人など、他人の行動に影響を与える人をオピニオンリーダーといいます。
芸能人やインフルエンサーであったり、部活の先輩や憧れの上司があなたにとってのオピニオンリーダーかもしれません。
そうしたオピニオンリーダーの持っているモノ、使っているサービスなどを消費者は参考にする傾向があります。
数年前にとある書店で「文庫X」という手法で本を売り出しました。
これは書店員のお勧めの本のタイトルや著者名などすべて黒いカバーで隠し、書店員の推薦文のみを表示して販売した文庫本です。
普通であれば内容のわからない本なんて売れませんが、この手法でこの本はバカ売れしました。
本の専門家である書店員というオピニオンリーダーが薦める本だったら読んでみたい、という消費者の心理を突いたマーケティング手法であると言えます。
そもそも知られていない商品は選ばれない
消費者はこのように内的要因と外的要因などの様々な情報を総合的に判断し、どの商品を購入するか決定します。
Aの方がBよりも安く品質がいいからと言っても、必ずしもAが選ばれるとは限りません。
しかし絶対に消費者に選ばれない商品というものがあります。それは、消費者がそもそもその商品を知らない場合です。
どこの高校に行くか検討しているとします。〇〇高校にしようか、△△高校にしようか、□□高校にしようか。さまざまな候補があり、そこから資料を取り寄せて比較検討し、最終的にどこを受験するか決定します。
この最初に検討にあがる〇〇高校、△△高校、□□高校のことを想起集団といいます。
この中からどの高校を受験するかを検討する際、上で見たような内的要因や外的要因がその選択に影響を与えるかもしれません。
オシャレな雰囲気の〇〇高校に行きたい(知覚)。昔から憧れの△△高校しか考えられない(態度)。中学の先輩がお勧めしてた□□高校に行きたい(準拠集団)。
しかし××高校はその存在さえ知られていないので、そもそも検討の土俵に上がることすらできません。当然、想起集団に入れない製品は消費者から選ばれることはないのです。
新規の製品やサービスを立ち上げたときは、多額のプロモーションコストを投じてまず「認知」をしてもらい、想起集団にはいることから始めなければいけません。
皆さんの会社の商品はこうした消費者行動を考えたマーケティングを行っていますか?
単に性能の良い商品を作って、原価+利益率をのっけた価格で、何も考えずに売ったりしても売れません。
まずは商品を認知させなければいけない。
商品をどのように消費者に知覚してもらいたいのか考えなければいけない。
消費者の自社製品に対する態度を強固にするにはどうしたらよいのか。
外部要因を活用するプロモーションは打てないか。
どのようにすれば消費者がうちの商品を購入したいと思ってくれるのか。
こういった手法をとことん突き詰めるのがマーケティングです。
- 鳥谷コロ助
へぼい外資系リーマンです。英語はいまだに勉強中。TOEIC875点。Bond-BBT MBA。英語学習とMBAと資産運用についてのブログを書いています。平飼いの卵とフェアトレードを好みます。金持ち父さんになるために日々悪戦苦闘。面白いことと平和なことが好きです。